すべては患者さんのために
薬剤師としてできることなら何でもやる

有限会社スマイル薬局
代表取締役 濱 寛

病院勤務でスキルと経験値をアップ

 大学では、とにかく研究室での日々が楽しかった。2年生で研究室を決め、3年生になると研究室で大半の時間を過ごしながら、日々実験を繰り返すわけです。ひどい時は、家に帰らずに研究室で寝て、朝やって来た人に起こしてもらうなんてこともありました。「これは学会で発表できるかも」などと胸を躍らせながら、研究に没頭していましたね。大学卒業後は、周囲が就職をしていくなかで、研究をもっと続けてみたいという思いから大学院への進学を選択しました。
 大学院では、病院実習を経験して臨床に興味が湧きました。研究もおもしろいけれど、こちらもおもしろいと。それで、大学院修了後に都城病院へ入りました。ここは当時、300床に対して薬剤師が5名。ある意味、少数精鋭ですね。何でもやらないといけなかったので、薬剤師としてのスキルを鍛える良い機会になりました。先輩たちからも「私たちが楽になれるかどうかは、君がどれだけ伸びるか、それにかかっている」などと、冗談まじりに言われて励まされたものです。
 振り返ってみると、あの当時はスキル面だけでなく、薬剤師としての覚悟というか、心構えも養えたと思います。病院には、退院してもまた病状が悪化して入院することになる患者さんもいます。がん病棟の患者さんに「大丈夫ですか?」と声をかけたら、「俺の半分も生きとらんお前に、何がわかるんか!」と怒鳴られたこともありました。それでも、私たちは患者さんに寄り添っていかないといけない。医療のプロに必要な姿勢を学べたと、ありがたく感じています。

患者さんと家族の生活を支える在宅医療

 2年経って飯塚市立病院へ移ったのは、私の出身地に新病院ができることを知った都城病院の先輩たちが「行ったほうがいい」と、親身に勧めてくださったことがきっかけです。実家が薬局で、いずれは後を継ぐことになるだろうという気持ちはずっとあったので、地元へ戻ることに。さらに2年後の2010年にスマイル薬局へ入社し、2019年8月に経営を父親から引き継ぎました。
 現在のうちの大きな特徴は、在宅医療に力を入れていることです。始めたころは、この地域で在宅を手がけているところはほとんどありませんでした。8年前に知り合いの医師から「行ってみてくれないか」と声をかけられたのが始まりですね。訪ねてみたら認知症のおばあさんで、ご家族の協力もほぼ期待できない状況でした。薬を飲み忘れないようカレンダーにマジックで目立つように印をつけたり、残薬がもったいないので日数調整したり。新しいことを始めるのが好きな性分に火が付き、いろんなことを試みました。大変だったけれど、患者さんの役に立てる実感から力が湧いてきて、自転車でせっせと通いました。そのうちに施設在宅の話も舞い込んできて、「スマイルは在宅やってくれるよ」と、地域で広まっていった感じです。
 病院からの連絡を受けて、在宅での終末期医療に関わっていくことがどんどん増えていきました。はじめの頃に経験したケースですが、患者さんが一時帰宅したら「とても喜んでいた」と話すご家族がいて、ご本人が「最期は家に帰らせてほしい」と希望されたんです。それで、ドクター、看護師、ソーシャルワーカー、ケアマネジャーが集まり、そこに私も入って慎重に時機を検討しました。「今しかない」というタイミングで患者さんをご自宅へ移せたのは、多職種連携の強みとそれぞれのプロ意識が功を奏した結果だと思います。患者さんを看取ったご家族から「ありがとうございました」と何度も言われ、私たちの仕事の意味を改めて実感しました。

「最期はわが家で…」その望みを叶えるために

 薬学生の皆さんはまだ若いから、自分がどこで死にたいかを考える機会はないでしょうが、私たちくらいの世代になってくると、「死ぬ時はわが家がいい」と考え始める人が出てきます。環境が整い、家族も理解してくれるなら、住み慣れた心落ち着く場所で息を引き取りたいと願うのは、ごく自然なことなのかもしれません。
 その想いに応えるために、薬局内に無菌調剤室を設置しました。稼働を始めてからは終末期の患者さんを看取る際に、モルヒネの持続注射をクリーンベンチで詰めて持って行くようにしていましたが、今では高カロリー輸液の調整もしています。
 実は4年ほど前、大学病院の通院から在宅に切り替えたいという連絡を受けたことがありました。しかし、その症例は高カロリー輸液の調整が必要なケースで、無菌調剤室を持たない私たちでは対応できなかった。「どんな症例でも依頼があれば断らない」という想いだけではどうしようもない現実に直面したことが、無菌調剤室を設置するきっかけとなりました。無菌調剤に対応できる薬局が無いことで自宅に帰ることを諦めている人を救いたい。ご本人のため、ご家族のために、最期の時をできるだけ安らかに迎えてもらうよう努めるのは、私たちの責務ですから。

できることは何でもして地域のために働きたい

 薬局の薬剤師は、例えば、未病の人の血糖値が上がるような場合に、入院しなくてもいいように対策を立てて役に立つことができます。また、薬を飲まなければいけないのに飲んでいない人に、なぜ薬を飲むべきなのかをきちんと伝えて理解してもらう役割も担えます。時には、少々うるさがられても、相手を思ってお願いすることで、受け入れてもらえることもあります。アプローチの方法は患者さん個々の事情や疾患などによって違ってくるので、しっかりと知識と経験を積んでおくことが必要ですが、あらゆるケースに対応していくなかで、信頼とやりがいを得られる魅力がこの仕事にはあります。
 薬剤師にできることは何でもやったほうがいい、と私は考えています。地域から依頼され、プールや給食室の検査をして子どもたちの学校生活を支える学校薬剤師としても務めています。すべては患者さんのためであり、地域に暮らす人々のため。興味があって、やってみておもしろいことなら、必ず成長の喜びと社会に役立てる実感が得られるはずです。

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